画 狂

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葛飾北斎:富士越龍図(1849)

 

己六才より物の形状を写の癖ありて

私は六歳から物の形を写生する癖があり

 

半百の此より数々画図を顕すといへども

五十歳の頃から数々の画図を本格的に発表してきたが

 

七十年前画く所は実に取るに足るものなし

七十歳以前に描いたものは、実に取るに足らないものであった

 

七十三才にして稍禽獣虫魚の骨格草木の出生を悟し得たり

七十三歳で鳥獣虫魚の骨格や草木の何たるかをいくらか悟ることができた

 

故に八十才にしては益々進み

ゆえに(精進すれば)ますます向上し

 

九十才にして猶其奥意を極め

九十歳になればさらにその奥意を極めて

 

一百歳にして正に神妙ならん歟

百歳でまさに神妙の域を超えるのではないだろうか

 

百有十歳にしては一点一格にして生けるがごとくならん

百何十歳となれば一点一格が生きているかのようになることだろう

 

願くは長寿の君子予が言の妄ならざるを見たまふべし

願わくば長寿を司る神よ、私の言葉が偽りでないことを見ていてください

                           画狂老人卍述

 

これは

葛飾北斎が「富嶽百景」(1834)の初編に記した言葉

75歳の時だという

 

百歳を過ぎての自己完成を誓うほどの

絵に向ける熱意と

自らを画狂老人と記す心意気

 

冨嶽三十六景の印象が強いものの

歳を重ねる度に北斎の作風は幾様にも変わりながら

どの時代の絵も研究・追及と楽しさに溢れて

90歳まで描き続けた絵と生涯を追うほどに

感嘆で気が高まって

笑いすら覚えてしまう

 

晩年

生涯最後に描いた絵とされる「富士越龍図」

画集のこのページが一番気に入っている

自由に天に上がる北斎自身の様

 

 

底知れない創造力と気力・体力で

全力疾走した画狂

 

しばらく仕事を休もうと思っていたけども

ダメだね

止まっている場合じゃないゎ。